地下足袋山中考 NO4
<百名山とゴンドラ観光>

 深田百名山に足を延ばしてから25年余りになる。毎年、新峰を極めんと数座を巡ってきたが、遅々として100峰に届かず22座に止まっている。中高年の諸氏は既に百名山を踏破し、喧騒和らぐ日本200名山・300名山に向かう勢いであるとか▲なかなか100座にゴールしない理由が三つある。それは、海洋性気候に支配された日本特有のモンスーン気候(梅雨・台風)が頻繁に峰々を隠し入山を拒むこと。名山が故に季節を変えアプローチを隈なく巡っていること。特に北海道の大雪も日本アルプス3群も遠くて懐が深い。それよりも東北三県の名山が高峰を凌ぐ植生と妖艶な姿を見せつけ浮気心を許さないからだ▲他山を巡り感動の風景に出会うと我が森吉山の姿と比べてしまう。その度に、丈は低いが一つの山塊に花、森、渓谷がこれほどコンパクトに凝縮したフィールドが他にあるものか、と自負する▲森吉山麓は大きな優位性がある。それは雨天で頂きを望めない時でも奥森吉のブナ林や渓谷渓流散策、奥阿仁の名瀑めぐりでリカバリーできることだ。雨のブナ林は水墨の世界であるし、水量を増した瀑布は圧巻に勝る▲高嶺の花を愛で、幽谷の瀑布に濡れ、渓谷美と奥深さを堪能し、豊穣の森を逍遥して森吉山紀行は完結する。ゴンドラ駅舎や登山口で、雨で地団駄を踏む登山客に情報を伝える手段が不可欠だ▲他県から訪れた24名のご一行様にこの山を選択した理由や媒体を聞く。以前はNHK-BS放送の「花の百名山紀行」だと返ってきたが、最近は当協会のホームページに魅せられてきました。とリュックにガイドのページを挿んでいる。思わず、ほくそ笑みながら森吉山の感想や旅行日程を聞き出すと、宿は乳頭温泉郷と八甲田の城ヶ倉温泉とか。森吉山は移動日のおまけコースであった▲朝一番のゴンドラに乗った盛岡市内のご夫婦が「日帰りできて助かります。帰りは田沢湖の水沢温泉で休憩して帰ります」と満面の笑顔。八戸の女性グループは午後から松川温泉に移動とか。ゴンドラ観光の便利さ故の功罪だ。高速道路の延長で名山間の移動時間は格段に短縮し、東北三県の名峰はすべて日帰り圏内となった。宿泊客の圏域はどんどん遠のいている▲ゴンドラ日帰り観光の脱却は、森吉山、奥森吉、奥阿仁3フィールドの合わせ技による宿泊トレッキングメニューの企画と周知が全てである。知らしめて結果として選ばれるか、その戦略を大胆に論議する場が欠如している▲森吉山の山岳パトロールは例年、NPO森吉山ネイチャー協会、山岳会、阿仁観光案内人の会、冒険の鍵クーンで実施。5月末に市商工観光課観光振興班から国の緊急雇用対策で新たに人材を公募するので従来のパトロール依頼は無いとの連絡が入った。以前から提案した専門スタッフの常駐配置であれば別だが、素人のアルバイト雇用は如何なものか▲パトロールの最低限度の心得は、植生や形成史に係る基礎知識と説明能力に加え救急救命の対処が求められる。各団体は独自の学習会や救命講習を重ねてきた。山岳パトロールのレベルとラベルを軽んじてはならない。訪れるお客様のステータスは高いのだから、と観光振興班に具申したところ前年どおりお願いします。とのことであった▲緊急雇用対策費は、登山道の整備と刈払い作業に向けてもらいたい。登山客にとって最大のホスピタリティーは雨が降っても笹に触れない、見通しが効く快適な登山道なのだ。(2010.5.25